2012年5月9日水曜日

熱処理試験について(第一鋼業編)


硬さについて

「かたさ(硬さ)」は比較的簡単に測定でき、いろいろな実験結果などから、各種の機械的特性との関係がわかリます。 例えば、硬さ換算表にも、引張強さと硬さの関係が示されているように、商用においての大切な取引基準となっています。

硬さは熱処理品においての重要な品質特性ですので、一連のアウトラインを説明します。
「硬度(こうど)」と称される場合も多いようですが、ここではJISにもとづいて、「硬さ」としています。

硬さの測定方法にはいろいろな方法があります。JISには ビッカース硬さ、ブリネル硬さ、ロックウェル硬さ、ショアー硬さなどについて詳しく規定されています。 これらは国家標準に対して精度保証をするトレーサビリティーの体系が整備されていますので、JIS規格やISO9001の認証を取得している熱処理会社では、硬さに対する基準が確立されていると考えていいでしょう。

しかし、これは硬さ試験機や硬さ基準片の管理基準ですので、実際の品物の硬さ評価についてはいろいろな問題も残っています。 ナイフのような薄いものの刃先や非常に大きい品物の硬さはどのようにして測定するのでしょうか。硬さ測定の概要について説明します。

上記の4種類を含めて、多くの硬さ試験は大きく、@ダイヤモンドなどの非常に硬い物を押し込んだ時の圧子の侵入形態で評価するもの(ビッカース、ブリネル、ロックウェル) A硬いものはよく反発するということを数値化したもの(ショアー)が比較的よく用いられています。 そのほかのものでは、硬さと超音波振動の関係を上記の硬さに換算して用いるものや硬さの異なるやすりを用いて、そのひっかかり方で硬さを推定するものなど、いろいろな測定の方法がありますが、ほとんどは上記4つの硬さと比較換算できるようになっているようです。

@では圧子の大きさや付加する荷重を変えることによって、広い面の平均硬さを評価したり、逆に小さい領域での硬さを測定します。 目的に応じて使い分けるとよいのですが、一般的には数値が直読できることからロックウェル硬さと、Aの、可搬式で大きな品物も測定できるショアー硬さが広く用いられています。

(1)ロックウェル硬さ : 専用の圧子を150kgの荷重で押し付けた時の進入深さから硬さを求める「Cスケール」で測定されることが多いようです。Cスケールの他では、A・Bスケールが使用されることもありますが、これらの比較のための「硬さ換算表」を用いて、相互の関係を理解しやすいようになっています。

ロックウェル硬さは、試料が硬いほど進入量が少なくなり、圧痕の大きさが小さくなります。 例えば、ナイフなどの工具で、60HRC程度の硬さでは、0.1mm程度の侵入深さになりますが、圧痕の周囲が盛り上がっていて、大きな圧痕が残っているように感じます。 そのために、圧痕を小さくしたいときは、Aスケールでの測定をしたり、ロックウェルスーパーフィッシャル試験機を用いた試験をする場合があります。

2mm程度以下の厚さの品物や測定面が平面でない場合などについては、JISには誤差が大きくなるので、それらの測定方法や補正が規定されていますが、実際の品物については、ほとんどは形状に対する補正をせずに、実測値(出た値)で硬さ評価が行われているのが現実です。 

(2)ショアー硬さ : ダイヤモンドハンマーを試料面に落して、その跳ね上がり高さを測定するもので、硬さの高いものが跳ね上がり高さが高いということで硬さ値を決めています。 その高さを目読する「C型」と、ダイヤルで表示する「D型」が一般的で、どちらで測っても同じ硬さになるように設定されています。

エコーチップ(商品名)のように、測定子を試料面に打ち出してその減衰速度からショアー硬さを求める試験機もあります。当社でもエコーチップを使用しますが、測定の簡便さやその他の硬さ値と自動換算できたり、垂直面以外の測定ができる便利さはあるものの、測定値の不安定さや換算表との誤差などがあって、人によっては使いにくいという評価があります。また、ショアーC型も使用していましたが、計測値がはっきりと直読できることから、現在は、ショアーD型を使用するようになっています。

ショアー硬さ計は、小さい試料や薄いものでは値が低く出る傾向がありますし、測る品物によって、C型とD型での誤差もでてきます(もちろん、硬さ基準片での違いがあれば、それは問題ですが)。そのために、JISでは使用試験機を明示するように規定があったり、測定結果についても、上記のロックウェル等と同様に、形状による補正なども示されています。(当社では、測定値をそのまま検査値として表示しています)


軸受にWS2を適用する方法

いずれの硬さ試験においても、測定面の表面粗さと両面の平行度が重要です。特に測定箇所をペーパーやバフ仕上げをして測定する必要がありますし、測定跡が残りますので、ナイフなどではハンドル部など組み付け時に隠れる平行部位で検査するようにしています。品物に測定跡が残るのを嫌う場合には、仕上げ代や測定方法、測定部位などを指定する必要があるとともに、仕上げ代や余肉をつけておく必要があります。

検査測定しない場合やできない物では、テストピース(別に準備した試験片)を同時に熱処理して、それを検査することで代用させる場合などもあります。

硬さ検査は、目的の熱処理が正しく行われているかどうかの確認をする作業ですので、検査する人は、正しい硬さ測定の方法を訓練しておく必要がありますし、JISに定めた方法を理解するのみならず、品物の測定面の状況を判断したり、適正な硬さを測定できるかどうかを見極めるという人的要素が大きい作業です。


硬さ換算表を使用する場合の注意点

硬さ測定方法の違いによる不便さをさを解消するために、硬さを相互比較するための「硬さ換算表」が広く用いられます。(こちらを参考に)

これは、JISで定めたものではなく、アメリカなどで取引上の利便性を考えて作成されてものをJISハンドブックなどに参考値として掲載されています。しかし、現実的には、非常に便利で、実用的なために広く常用されていますが、数字を細かく見ると、微妙に異なっているところもあって、使い方について理解しておかないと、トラブルの原因になりかねないので、注意する必要があります。

当社では、大きな品物を多く測るために、ショアー硬さを他の硬さ値と換算しやすいように使いやすい表を作成してそれを常用しています。

しかし換算表は実験などから得た比較値であるために、組織のムラがあるものやNi含有量が高いもの、硬さ測定中に加工硬化したり変質するもの、有芯焼入れ品(表面と内部の硬さの異なるもの)などでは、正しく換算できないことが分かっています。

当社でも、指定された硬さ値に対してその試験機を使用しない場合や使用できない場合があります。(HB指定であるけれども、大きすぎて、HSで測定する場合などです)
このことが、大きなトラブルの原因になる場合があるので、測定に使用した試験機と硬さ値を明記して検査成績を管理したり、出来るだけロックウェルCスケールに統一して測定することなどによって硬さ換算による問題が発生しないように配慮する必要があります。

硬さ換算表は便利ではありますが、このように、異なる硬さ計で測っていることによるトラブルの原因になる場合は、出来るだけ換算表を利用しないようにするのがいいのかもしれませんが、そうも言えない場合が多々あります。発注する側も、意外と硬さ測定における基本的な問題点を理解していない状態で安易に硬さ指定をしたために、後になってからトラブルになる場合もでてきますので、事前の確認が重要となります。

一般的には、耐摩耗性の優劣は「寿命」に結びつけて考えられます。 硬さが高くなると、耐摩耗性が高くなると言えますし、実験でもそれが確かめられています。(しかし、寿命との関係は別です)
耐摩耗性を評価する試験方法は、@砂などの鉱物と試料にこすってその損耗量を比較するもの(この摩耗を土砂摩耗とかアブレイシブabrasive摩耗という言い方をします) A金属を押しつけて摺り合わして試料または相手材の損耗状態を測定する(凝着摩耗とか、アドヘッシブadhesive摩耗といわれます)ものに大別されます。

その他いろいろな試験機や試験方法があり、その値も千差万別ですが、近年は、大越式(おおごししき)迅速摩耗試験機を用いて比較したデータをよく目にします。これは、リング(普通はSCM415とかS45C焼きならし材)を熱処理した平板(試料)に押しあてて、リングの摩擦スピードを変えて平板(試料)の摩耗痕から摩耗減量を測定して「比摩耗量」を算出するものです。比摩耗量が小さいと、耐摩耗性が高いと評価されます。

この試験方法は、簡単に摩耗条件(摩擦圧力と摩擦速度)をセットできることから広く用いられるようになってきましたが、摩擦速度や荷重のかけ方によって摩耗形態が変わることや結果のばらつきも多いために、他回数の試験をするなどで、結果数値の取扱いには注意する必要があります。


衝撃振動の電子パッケージング

このように、材料の耐摩耗性は出来るだけ同じ試験方法で比較して判定していますが、たとえば工具の減りにくさを直接判断するというものではなく、単に決められた試験での摩耗量の大小を測るだけのものであるために、この試験結果だけで摩耗の優劣を判断出来るというものではなく、これを一つの指標としてとらえる程度に考えておき、化学成分と顕微鏡組織、いろいろな機械的性質や熱処理方法と硬さ・・・などを含めて総合的に判断することが必要です。

ナイフなどの刃物では、一定量の紙や決められた材料をを切ったときの切断荷重の変化を見たり、損耗量を測ったり、試験後に薄紙の切れ具合を判定する方法など、いろいろな方法を検討されているようですが、確立されたものがないのが実情のようです。

一般的な材料、熱処理面からみた耐摩耗評価としては
 1)硬さの高いほうが耐摩耗性が高い。
 2)炭化物量が多いほうが耐摩耗性が高い。
 3)炭化物の大きさが大きいほうが耐摩耗性が高い。
 4)炭化物の硬さが高いものが耐摩耗性が高い。
と言われます。

しかし、大まかにはこれに合致するのですが、不都合な場合もあります。
例えば、紙を切ったときの切断荷重の大小などの評価では鋭く立った刃先に耐摩耗性が高いと言われる大きな炭化物があれば、刃先が鋭角にならないので切れ味を低下させるうえに、刃こぼれの原因になります。 目に見えないほどの微小な刃こぼれがあれば、切れ味が悪いと評価されますので、このことから、切れ味は高合金鋼よりも炭素工具鋼が良いと言われることや、実際に刃立て性(目立て性)が優れていることなどを見ると、それらを評価できるナイフなどの専用試験方法があっても良いようなのですが、色々と考案されているものの、一般化されていないのが実情です。

その他の評価試験方法としては、ある材料メーカーではポンチダイスのような工具を使って実際に使用したときの摩耗状態を評価したり、切れなくなるまでの使用回数を比べたり…というような試験をしたりする例はあります。カスタムナイフや「匠」の世界では、使用目的に対する適正硬さなどがあっても、客観的評価よりも感覚評価で判断されている場合もあります。

このように、鋭利な刃物などでは、「摩耗している」と評価されたものを詳細に調査すると、非常に小さな欠けが発生して切れ味を鈍化させていたり、仕上げに電動グラインダーを使用したことで、加工熱のために焼戻し温度以上に昇温させたことで刃先が軟化しているという例もあったり、使用中の油などによる潤滑効果の影響で高評価されることもあるなど、耐摩耗性の評価は寿命の評価とは異なりますので、十分注意する必要があります。

(1)衝撃試験による方法
じん性の評価に限らず、材料間の性質を比較するために、材料メーカー各社でもいろいろな材料試験や比較試験が行われています。JISにないメーカー独自の試験方法やPR効果をねらった指標などもあるので、客観的な評価方法が統一されていない状況と言えますし、言い換えれば、材料特性が多岐にわたっていて、簡単な評価がしにくくなっているのかもしれません。

材料のじん性評価は、衝撃試験による場合が多いようですが、それ以外にも、材料メーカー各社でいろいろ工夫されて実施されています。

衝撃試験によって吸収エネルギーの大きさを測定する方法のひとつに、シャルピー衝撃試験機を用いる試験があります。鋼材を熱処理して10mm角(長さ60mm程度)の試験片をつくって、ハンマーでその中心を叩いて、試験片を折った時に失われたエネルギーを測定する方法です。

機械構造用鋼などでは、小さな切欠き(ノッチ)をつけたJIS3号試験片によるものが多いのですが、工具鋼などの非常に高い硬さのものを試験するときに、測定値のバラツキが少なくなるように日立金属(株)では、JISには規定の無い10Rのノッチ形状で試験をすることが多いようです。(10Rシャルピー衝撃試験と呼ばれています)
しかし、これによっても結果のバラツキが多く、当社でも3本の試験の平均値で評価していますが、首を傾げたくなる数値のバラツキが出るのは通例です。

外国メーカーでは、ノッチをつけない試験も多く、また、50HRC以下のものでは、JIS3号のシャルピー試験片が使われることが多いようで、試験方法や試験片の形状が変わると結果(数値)が大きく変わるという欠点があります。ノッチの違いを、簡易的に換算して比較されることもあるようですが、あてにならないと考えたほうがよく、じん性値の比較は同一試験条件で行う必要があります。


ワットアンペアに変換する方法

(2)抗折試験による方法
じん性値を評価する別の方法として、曲げ抗折試験による吸収エネルギーの値で比較されることも多いようです。 熱処理した丸棒の抗折試験をして、その時の荷重とたわみの大きさの積を「吸収エネルギー」の値として表現する方法で、日立金属(株)では5mm径の丸棒を用いて50mmスパンで曲げ試験が行われています。

およそ60HRC以上の「硬い」ものでは、シャルピー試験の値自体が小さい上に、バラツキが大きくなりやすいために、衝撃試験ではなくて、抗折試験値で比較されることが多いようです。また、反対に55HRC以下の硬さでは材料がねばくなって折れにくくなるために、低い硬さのものの抗折試験は不向きです。

(3)その他
ねばさ≒じん性として評価される場合もあります。その他の方法として、ねじり衝撃試験や引張試験などがあります。

高い硬さや、低いじん性レベルの材料を比較し評価するには、試験片の調整(製作)結果で、大きく数値が異なったり、試験機の剛性や精度など、いろいろな問題があって、特に硬さの高い工具鋼のじん性評価は簡単ではありません。


硬さとじん性の関係

金属組織、硬さからおよそのじん性の傾向は判別できます。 シャルピー試験を例にとると、結晶が均一に分布しており、その粒度が小さく、硬さが低いとじん性値は高く、その反対に、結晶粒が不揃いで、粒度が荒く、硬さが高くなるとじん性値は低くなります。 また、炭化物の量や分布傾向、熱処理の方法でもその値が変化します。

ここに硬さとシャルピー値の関係と焼入れ、焼戻しによる硬さ変化と吸収エネルギーの関係の一例を示しますが、ここに見られるように、硬さを決める際に焼入れ温度が大切なことがわかります。


材料の方向性とじん性値

シャルピー試験によるじん性値は材料の方向によって大きく変わります。通常、材料は製造過程で圧延などで伸延されますので、伸ばされた方向に対して直角に力を加える場合は高い値を示します。(この材料取りの方向を「L方向」、圧延方向に直角の方向を「T方向」と表現し、断りがなければ、L方向の試験をします)

ここの図46は、材料の方向によって熱処理後の変寸量の差を示していますが、変寸量とじん性値は材料方向の影響が大きいということを覚えておいてください。

通常はじん性値の高い値が出るL方向で試験するのが一般的です。 逆にT方向ではL方向の1/2程度以下に低下する場合が多いので、この差を改善するために、各メーカーでは、粉末技術を利用したり、ESRなどの特殊溶解や脱ガス技術などを利用したり、圧延や鍛造の方法を工夫することによってじん性値を改善するなどの、さまざまな対策が取られています。

「被削性」は機械加工するときの「削りやすさ」を、「被研削性」は砥石によって研磨したときの「研磨されやすさ」をいいます。 日立金属(株)などの材料メーカーではエンドミルで削ったときの加工量(削った量)や研削時の砥石と品物の研削比で研磨のしやすさを測定している例がありますが、試験対象は金型などを加工する工具用の鋼種の一部のみで、幅広いデータはそろっていないようです。

これらの結果は上の耐摩耗性評価と似かよっているものが多いので、例えば、ナイフなどを製作する鋼種のおいては、耐摩耗性の傾向(耐摩耗性)と同じように考えてよいでしょう。

手作りナイフなどでの加工量(削り量)は金型の加工などよりも少ないのですが、できるだけ加工量を減らすように適寸の材料を購入したり、熱処理後の仕上げを出来るだけ少なくする熱処理前加工をしておく・・・などの配慮によって、難削材の問題を避けるようにします。

最近の熱処理は真空炉であっても、ソルトバスによるものであっても、加熱中の脱炭などで表面が変質してそれを除去しなくてはならないことはなく、仕上がり肌色の違いはあっても少し磨けば清浄面が現れますので、熱処理後の仕上げ量を少なくして仕上げ時間短縮が図ることが大切です。

また、機械加工性は次に示すように、「焼なまし硬さ」によるところが大きく、平たく言えば「高価な材料のほうが硬い」傾向にあります。


機械加工のしやすさ・・・「被削性」と焼きなまし硬さ

これを表す方法として、ドリルを用いた切削抵抗や工具寿命、切りくずの形態などで比較されていますが、広範囲の材料を比較できるものはほとんど見当たりません。

一般には「機械加工のしやすさ」は材料の機械的性質によると考えられており、その機械的性質は鋼材の成分や焼なまし硬さなどの熱処理結果で決まってくるとされています。


硬さについては合金元素を含まない「炭素鋼」では150HBを境にして、それ以上硬いと急激に工具寿命が短くなるという試験結果があります。 また、切削加工した時の「きりこ」の状態から150-180HB程度が加工しやすいとされ、それ以下では「ねばく」なりすぎて加工性が悪くなるとされます。 また、合金鋼でも焼なまし硬さが250HBをこえると、加工しにくいという例が報告されています。このことから、炭化物量の多い粉末系の材料は加工性が良くないと言えます。 これらは、ドリルなどの切削抵抗などの評価が主体ですが、やすりなどのかかりにくさについては、焼きなまししたときの「硬さ」の要素が大きいと考えられます。

別紙に鋼種、主要成分、焼なまし硬さ、常用硬さを示します。

工具鋼では、金属組織的に見て「球状化焼なまし」されている硬さが最も低くなっていて、その状態が加工しやすいとされています。 

炭素量や合金元素量が多くなって炭化物が生成されると、その形状や分布によって被削性が悪くなるようですが、これらも焼なまし状態のブリネル硬さを基準にすれば大まかな被削性が判断できます。

「快削鋼」と呼ばれる鋼材もありますが、これはS(イオウ)やCa(カルシウム)などを加えて非金属介在物として分布させることで、加工中に「切りこ」が切り放しされやすいようにしたものですが、ナイフなどの手加工するものではほとんど加工程度に影響しないので、これらの説明は省略します。


研磨のしやすさ・・・被研削性

被研削性については、(1)硬さ  (2)炭化物の種類(成分) (3)炭化物の量 が関係します。

被研削性は、一定条件で品物を研削(研磨)した時の砥石の減量や同条件の研削量などで比較されています。

別紙の表を参考にしてください。

カスタムナイフの加工では熱処理後の仕上げに時間がとられることから、被削性よりも被研削性が重要になります。 このため、熱処理後の仕上げ加工を少なくする工夫で仕上げ時間の低減をはかることが大切です。その1つの方法として、熱処理方法を表面が変質するようなことのない、ソルトバス熱処理や真空熱処理等の無酸化雰囲気での熱処理(「無酸化熱処理」)が有利と言えます。

ここで、材料を決める場合の考え方の幾つかを紹介します。
SKD11やSUS440CのようにCr量が多い鋼材は顕微鏡で見ると0.1mmもある大きな炭化物があります。 この炭化物は鏡面仕上げするような場合には、しばしばそれが表面に浮き出して、仕上げ状態が悪くなる場合があったり、微妙な光沢が生じます。 また、この大きな炭化物が鋭利な刃先にあると、研磨中に脱落して、刃先に微小なかけが生じたようになリます。切る対象によって、切れ味が良くも悪くもなります。これらの成分的な特徴は長所にも短所にもなりますので、材料を選ぶときの知識として知っておくとよいでしょう。

近年では高価なカウリXなどの粉末系やATS34などのステンレス系が用いられているようですが、焼なまし硬さや炭化物量などをあわせてみて見ると、高価な材料ほど加工性(被削性と被研削性)は悪いと考えたほうが良いかも知れません。

また、研削時に特に注意したいのが、「研磨焼け」です。 とくに、グラインダーなどの機械を用いて「乾式研削」をしたときに、表面の色が変わるケースです。 「焼き戻し色(テンパーカラー)」がつくような研削をしますと、多くの場合は硬さが変化します。 多くの鋼種では、熱処理時の焼戻し温度が200℃以下のものが多いので、青い色がつくようなら、300℃程度の温度になっており、刃先先端は、もっと温度が上がっている可能性が高く、硬さが低下してしまって、刃先がすぐ磨耗したり、微小な欠けが起こるなどの問題が発生します。特に耐摩耗性が非常によいと言われる材料の場合は、研削性が悪いものが多いので、研削中に刃先の温度が上がらないように特に注意します。



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